2016年6月15日水曜日

メイカーズインタビュー#2 谷口直嗣 さん 後編


■5周回って3周目あたりを狙ってくる谷口さんのインタビュー後編


ブラジル料理屋で話を聴き始めたん担当者…。
谷口さんの視点は先を行っていて驚くっていうか、ブラジル料理おいしいなあ。

■Pepperに見る"ロボット"


谷口さんのいい笑顔
谷:Pepperの話に戻りますが、webのデザインの方は新しい物もお好きですし、Pepperのアプリを手がけているのもよく見かけます。
  CGやゲームをやっている側から観ると、Pepperに身体があること、腕や手が付いていることを前提にしない演出かなと思うこともあります。
  そういったことに関しては、ゲームとかCGの経験者のほうが経験として持っている場合もあるなとありますね。
  もう少し言うと、舞台演出とかやっている人が向いていると思うこともあります。

金:え、ロボットに舞台演出ですか?

谷:演劇とかですね。インタラクションの側面でそう思います。

金:なるほど…。知らないからこそ原始的な質問をしますが、スマホやタブレットと決定的に違うのは、物理性かなとも感じます。
  人間の生活に対してフィジカルなアプローチがないなと思っていて、その部分を担うのはロボットかなと思うんです。
  でも、フィジカルなサポート、というと、従来の産業ロボットとの差がないというのも正直な感想です。

谷:ソフトバンクのプロジェクトは、長い目で見た"実験"だと思っています。
  Pepperって役に立たないじゃないですか。でも、使わせたり、売るという実績は持っている。
  でも、実績や経験値って大切なので、そうやってロボットビジネスは具体的になったり、育っていくんじゃないかと思ってます。

金:ふむ…なるほど。
  で、くまきゅのテーマは現在HMI、人と機械の関係性について模索することなんですが、先ほどの産業ロボットを例に考えてみたいと思います。
  フィジカルなアプローチに対するフィジカルな部分の大きい印象の結びつきは、"既存"の領域であると思ってます。
  産業ロボットの「動作」に対して「作業完了」とかですね。
  突き詰めていけば更に面白くなるとも思っていますが、違うことを考えてみてもいいなと。
  例えば、フィジカルなアプローチによってメンタルに訴えかけるというのも面白いのかなと。
  くまきゅは「振る舞い」によって「メンタル」に影響がある(ポジティブな方向に)領域を意識しています。
  「見出し」みたいな側面も大きいんですけど。

谷:それはね、あると思います。

■インタラクションって何だ

ポムポムプリン(サンリオ)や!
谷:この間、僕は渋谷でやっていた「ポムポムプリン(サンリオのキャラクター)」を見に行ったんですよ。
  ※渋谷駅で半立体のほぼ成人等身大のポムポムプリンが展示されていた。
  これ、これです(撮影画像をお見せ頂く)
  結構等身大ででかいんですよ。
  これで、みんな触ったり抱きついたりするんです。
  これは見た目の通り、触感があって(ふわふわの布が貼ってあり、綿を入れてふわっとさせていた)、ふわっとしているんです。
  電気とか使っていなんだけど、僕はこれは「インタラクションの発生するサイネージである」と思ったんです。
  インタラクティブだなと感じたんですね。

金:!

谷:従来のサイネージみたいに画面があって、グラフィックが入ってというよりもインタラクティブと思った。
  少し乱暴な言い方かもしれませんが、インタラクティブってコンピュータがあることが前提ではないなと思いました。

金:キャラクタの話が出たのでもう一つお伺いしてみたいのですが、くまきゅの持っているテーマの一つに「かわいい」というのがあります。
  これは関係性構築の目標値みたいな扱いをしていて、目指すべき「かわいい」をどう扱おうか迷っているところです。
  「かわいい」って何だろう、みたいな。
  谷口さんが飲み会で「C3POとR2D2だったらR2D2のほうがみんな可愛いと思うよね」と仰っていたのが印象に残っています。
  この話題では、人間との関係性における優劣とか、コミュニケーションにおける非言語性とか、いろんな要因が絡んでいるように思えます。
  大変参考になりそうなので、もう少し掘り下げたいと思います。
  人間側の思い込みというか、「見出し」みたいな思考のくせみたいなものも、インタラクティブということに繋がりそうに思うのですが。

谷:そうですね、そのへん(インタラクション)は僕もやっていきたいなと思ってるんです。
  僕、電子工作とかやらないんですよ。

金:え!そうなんですか!?

谷:めんどくさいじゃないですか(笑)

金:ええっ(笑)

谷:めんどくさいし、わかんないし、儲からないし(笑)

金:あははは(笑)メイカー界隈では珍しいタイプに思えますね。

谷:TMCNでは、みんな割と好きですが、みんなやらなくてもいいかなって(笑)
  興味なくはないですけど。
  電子工作っていろんなノウハウがあると思うんですけど、誰でもできちゃうって側面がありそうに思います。
  組み合わせてやれば、動いたり、LEDが光ったり。
  僕は今は、誰でもできそうなことよりは自分の得意分野を軸足にして、「誰でもはできない」ところをやりたいと。
  ロボットとか、子供の教育っていうのはレッドオーシャンに僕にとっては見えるわけです。
  で、僕はPepperとロボットアームの組合せをやったわけですけど、あれって誰でもできるわけではないと思うんですね。

金:確かに誰でもできるわけではないと思います。

谷:ソフトバンクの携帯ショップでも裏に一杯人間がいて、制御したりメンテしたりしなきゃならんわけですが、段々自動化されていくと思いますし。

金:うーん、こうやって聞いていくと、冒頭にお話に出たとおり、谷口さんにとってはロボットは「使う」対象なわけですね。
  ツールというか。

谷:まあ、簡単に言うとそうですね。

金:ツールとして、望ましい姿ってありますか?
  ソフトバンクのプロジェクトでは受け付ける、接客といったコミュニケーションの部分をPepperは担ったわけですが、他にもロボットに対して「やらせてみよう」みたいなインタラクションのイメージとか、役割はありますか?

谷:ああーなるほど。そうですね…。
  いかようにも作り次第とは思うんですけど、一つは「メディア」みたいなもんですね。
  ロボットを使って、表現したいことをやる、みたいな。

金:興味深い答えですね。

谷:ロボットでしか出来ないことって割とありそうに思うんです。

金:ああ、何となくPepperとロボットアームでなさったことがわかって来たように思います。

谷:僕自身の企画ではないんですけど、上手くハマったとは思ってます。

金:あの組合せで面白いなと思うのは、「場における役割」が割り振られていたことだと思いました。
  確かにPepperは腕は付いているけど、ロボットアームみたいなことは出来ないし。

谷:割りきって考えてもいいと思うんですよね。「あいつ何にもできない」みたいな(笑)

金:話を「見出し」に戻しますが、Pepperも接する人の何となく持っている欲求で見出し方とか、求める振る舞いが変わるように思うんですよね。
  自分の中に持っている偏見というか、バイヤスみたいなものが「見出し」に露見しているように思います。

谷:Pepperといつも共に過ごしたい、連れて歩くみたいなことをやっている人がいます。
  その方は、「好き」とか、「連れて歩くことによる表現」をやっていると思っています。
  僕自身は、そういうのとか、癒やしみたいなものはあまりないんですね。
  僕にとっては、Pepperのプログラムを組むことのほうが面白い。
  Pepperって自分でプログラム組むのが一番面白いんですよ。
  入っているアプリで、「こうやって、こう動く」みたいな。

金:ああ、それで思い出すのはロボットに対する経験値」みたいな話ですね。
  飲み会で(笑)Pepperのハッカソンなどを観ている方にお話をお伺いしたする機会があったんです。
  印象に残ったのは、Pepperと過ごしたことがある人とそうじゃない人とは3周くらい先をいっている、みたいな話がありまし。
  で、谷口さんは3周回ってる人のように思うんですけど(笑)

谷:ああー(笑)

金:でも、私は過ごしてないし、プログラムをしていないので、わかっていないと思うんですよね。
  何が「3周」なのかなっていう。

谷:ああ、なるほど。
  その話を聞いて、多分なんですけど、1周って、お店とかで接してみる、みたいなとこかなと。
  で、2周って会社とかから言われて何かつくってみた、みたいな。で、ここで割とみんな普段の仕事に戻っちゃうわけです。
  そこから、「Pepper使って何ができるんだろうって考え始めている人が3周めじゃないかなと思うところはあります。
  Pepperの限界とかも理解しつつ、そこから始まる可能性を語れる、というようなところなんじゃないでしょうか。

金:なるほど。3周めってそういう表現だったわけですね。

谷:多分ですけど。
  使ってみて、ダメな奴なんですけど(笑)

金:(笑)

谷:ダメなんだけど、どこから考える、始める、という。

金:ううーん、なるほどですね!

■くまってさー(笑)3周先を走れ

何とメイン料理を撮り忘れるという失態…
すごく美味しかったです(笑)
金:話をくまに戻してみたいのですが、実は最近、くまのぬいぐるみ型のIoT機器が立て続けに出てます(笑)
  で、自分のほうが先後わからないですけど、ハッカソンの場で作って議論した、という経験値から言うと、自分が目指すのはくまじゃないなと思いました。
  見て、くまは確かにかわいくて、出てきた製品もなるほどと思うんです。
  でも、やりたいことをくまで表現してみて、体験した人の反応があって、初めて「あ、これは何だろう?」という感じになったんですね。
  くまきゅに求めたというか、欲求みたいのって何だったのかな?と。
  谷口さんのように、創ってる側の人、特に「関係性」みたいなことを考えられる人に聞いてみたいというのがあります。
  くまきゅみたいなものってどう映ったんでしょうか?

谷:ああ~…。
  今日は実物ないんですね(笑)

金:雨で持ってこれなかったんですよね(笑)

谷:体験がないので、不確かな部分はありますが…どっきりとかしかけたいですね。

金:どっきり!

谷:周りもびりびり~ってなるとか(笑)

金:あははは!(笑)
  ああ、思い出しましたが、その開発後の議論で「人間側が受動的」であることを話してました。
  人間側の思い通りの反応って「操作って言う行為と何が違うんだろう?」と思ったんです。
  どっきりほど過激でいいのかわからないですが(笑)人間が意図しない反応っていうのはいいですね。
  で、人間側が受動的なインタラクションなんですけど、動作のためのトリガーはあってもいいのかなと思うので、設けましょうと。
  でも、センサーがこれだけ発達してきて、人間側もセンサーで振る舞いをとられることにどんどん慣れていくと思うので、意識したトリガーでなくてもいいかなと思います。
  そこで、モノ側が意思をもっているような動作ができたら、ソレは面白いなと思うんです。
  先ほど仰ったどっきりというか、サプライズもソレに近いものを感じました。
  同列で捉えていいのかわかりませんが、ペットなども「自分の思い通りにならなさ」がかわいい側面もあると思うんです。
  それも表現したいことの一つです。

谷:そういうのもいいですね。
  世の中、思い通りにならない事のほうが多いですよねえ。
  僕は楽器をやったりするんですけども、インタラクティブに楽器のように扱える機器もあるじゃないですか。
  実は僕は簡単に扱えるような類の楽器的なものはあまり好きではないんです。
  ああいうのって子供とかに人気だったりするんですけど、予定調和内といいますか…。
  いくつかあるんですけど、僕としては、なんて言うんですかね、深みみたいなものを感じられないというか。
  例えば、ブラジルの楽器があるんですけど…

金:あ、ここでブラジルなわけですね(笑)

谷:ええ、あはは(笑)
  パンデイロという、タンバリンみたいな楽器があります。

谷:単純でシンプルなんですけど、やりこんでいくと、いろんな工夫ができたり、演奏者が考える余白があるというか。
  シンプルでアナログなんだけど、難しくて奥が深いというモノ・コトを面白いと感じます。
  で、思い通りにならなさって、まあ一種…思い通りにならない→思い通りになるという経路のほうが楽しいのかなと。

金:!!

谷:割とみんな簡単に思い通りになるものを求めるんですけど。
  まあ、僕の好きって感じじゃないですね。

金:おもちゃとかでも、すぐ飽きるみたいな側面もありますしね。

谷:僕の乗ってる自転車は競輪用のなんですけど。

金:またマニアックですね(笑)
谷口さんの自転車。赤がかっこいい。

谷:変速機とかもなくて、乗ったら大変ではあるんですけど、慣れると面白いというか。
  都内の坂なら登れちゃいますし。
  まあ、僕はそういうのが好きなんですね。
  ある種、Pepperを扱うのも似たところがあります。
  思い通りにならないけど、なったら面白い。
  で、創り方とすれば、半分創って、後はユーザがつくり込んで行くみたいな。
  プログラムにしても、CGのプログラムを創ってデザイナーに渡すと、僕自身が想像しないようなとんでもないパラメータを入れて絵を創って返してくる。
  そういうのが楽しいんですよね。ああ、面白いなと。
  ある意味、半完成品みたいな世界が個人的には面白いと思っています。

金:使う人との「セッション」みたいなことですね。

谷:そうなんです。
  でも、最初のウケは良くない。
  最初の5分で「なんだこれ」みたいな。
  使いやすい、わかりやすいモノのほうがウケるんですけど、でもまあ、そういうのが好きな人がやればいいなと。
  僕個人はそういうのは好きではないし、自分ではやらないです。
  僕からしたら、くまきゅも、今井さんや金子さんの想像しない遊びが生まれたら、それが成功なんじゃないかと思います。
  そうなったら、「良い」プロダクトなんじゃないかと思います。

金:それは、すごい、すごいですね…(興奮)

■インタビューを終えて

やっぱり谷口さんは面白いし、すごいなという感じです。
何がすごいって、専門性の高い人って高いだけに目の前の自分の分野にフォーカスを絞りがちなんですけど、谷口さんは俯瞰する視点をお持ちで、伴って分析力が高い。
そして、大抵、自分分析ができないひとが多いわけですが、それが恐ろしく冷静になさっている。
そして、創り手側として、先端の考えの方との接触機会を頂戴できて、とても光栄です。

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