■受付にて
金子(以下金):こんにちは~お約束を頂いております金子と申しますー。ご対応いただいた方:どうぞ、こちらですー。
吉崎(以下吉):こんにちは。今日はよろしくお願いします。
金:こちらこそ、お忙しい中すいません。よろしくお願いします。
(いつも通り、仏のようなほほ笑み…)
吉:今日は質問とかは特にないというお話だったんですけど、くまきゅについて話せるということで楽しみにしてきました。
金:えっ、でもゆるいんで、何ともいえないんですけど…(笑)
私は吉崎さんにお話をお伺いできるということで楽しみにしてきました。
あの吉崎さんを半目で写真撮る不届き者は私です。 |
■ロボット好きは「ロボットユーザーになりたいからロボットを作っている」
金:インタビューをお願いした理由としては、くまきゅに見るHMIを検討したいと思っているからなんですけど…。
これをロボットと呼んでいいのかわからないんですが、人と機械の関係性を考えてみて、再制作に進みたいと思ってはいるんです。
一般の生活者にお伺いするのはまだ早いと思っていて、「創る側」「新しい領域に理解がありそうなクリエイター」にお話を伺っています。
吉:そうですね。ヘタすると、新しい物って「欲しいですか?」と聴いてしまうと、8割「ああ、はい」みたいな回答になってしまいますもんね。
金:そうなんです!そうなんですよ~!
吉:まだ普及していないものに関しては、聞き方難しいですよね。利点についても欠点についても想像力が働きにくい。
金:新しい領域とか、名前がまだないものについては、有識者とかに聞くのがいいかなと。
吉:そうですね。有識者と呼ばれる人たちにも想定の難しい場合はありますが…
金:それはあるんですが、そこは雑談的に考えながらお話していくのでもいいかなと。
今回の取り組みでは、割と面白いお話が出てます。
吉:ロボット好きには、つまるところ「自分がユーザになりたいから」という理由で作り始めている人も多いですから、いろいろ本人の中でイメージできてるんですかね(笑)
金:おおー、創ると同時にユーザーでもあるんですね。イマドキのMakerっぽいですが…
吉:自身が作ってるものが、社会で使われている様を想像しながら作られている方も多いかなって。だって、ほしいじゃないですか。SFみたいなロボット。作ると同時に潜在ユーザーでもあるという。
金:今まで聞いた方からは自身もユーザーであるという言葉で表現されたことはないですね…。
吉:買いたいけどないから作ってる人が多い分野だと思ってます。
金:なるほど。じゃあ吉崎さんのほしいものってなんだろう?と聞きたくなってしまいますね。
■ロボットそのものじゃない、「ロボが当たり前の未来」が欲しい
吉:私の場合…相当幅広くなっちゃうと思うんですよね。ほしい”ロボット”たぶん、ひと昔前のマイコンがそうだったみたいに・・・いろんな製品にあたりまえのように組み込まれた結果、存在がわすれられるのが理想ですかね。
たとえば、ロボット掃除機が現行の掃除機を絶滅させられるほど利便性の高いものになれば、そのうちこれこそが「掃除機」と呼ばれるかもしれない。
一方で、ヒューマノイドというか、人にある程度近い形状で作業をする汎用機械だけは、簡単には分類しづらいので、将来はこれのみをロボットと呼ぶようになるかもしれないですね。
他のロボット掃除機とかは、ロボティクスで強化された何か・・という未来。
金:前は「ロボット」というと、見た目が二足歩行とかのものを想像することが多かったように思います。
今では、四足歩行とか、擬人化した何か機械みたいなものもあると思うんですけど。
広義でいうと、ロボティクスみたいな言葉になるんですかね?
足腰の機能を助けてくれたり、起き上がりを支援するようなベッドも含まれるんでしょうか。
最初、割とナンセンスな質問になってしまってましたが、そういうことですよね?
吉:そうですね。僕は、ベッド型のロボット好きです(笑)
ずいぶん昔のアニメで、老人Zっていうのがあったんですけど。
すこしだけあらすじをお話すると、高齢の方が高機能な最新ベッドを操って活躍(?)するっていう、そういう映画なんですよ。
金:おお!それは!未来っぽい話ですね(笑)
吉:何にでもロボット技術が適用できるようになると、それはベット機能を持ったロボットじゃなくて、単なる高機能ベッドなのかもしれないですよね。
なんにでも「ロボ」ってつける意味あるのか、みたいな議論。
炊飯器もかつては「マイコン式」とか言ってましたけど、今はだれも言わない。
金:なるほど。
ロボが入っていることが当たり前の未来では、「高機能●●」であって、ロボと称するまでもないと。
■くまきゅってロボット?
吉:そこで思うのは、”くまきゅっ”て、”ロボティクスで強化されたぬいぐるみ”を目指すのか、”コミュニケーションロボット”がぬいぐるみのキャラクタを借りているだけなのかが気になります。それって意味がだいぶ違ってくると思うので、気になります。
金:うーん、そうですね。
今、私はあまり…ロボットのことをよく知らない…というか。
アスラテックの皆さんの前では知っているなどと言えないわけですけども(笑)
「ロボティクス」という名前がついているものって、産業目的が多いように思うんです。
何かしら、「助ける」「便利」みたいなものが多いように思える。
で、「ロボット」っていうと、AIBOとか、愛玩目的のものもあるように思います。
便利とか助けるってこととはちょっと違う目的のものも多いように思うんですが…。
言葉の定義自体が難しいようにも思うんですけど。
吉:この辺のイメージは、世代とかでも変わりそうですね。
金:最近になって、ロボットやロボティクスという言葉を知った者としては、ロボットとロボティクスの違いをそういう風にとらえしまっていましたが…。
歴史とか時代とかそういうところから学び直すとまた考え方が変わるのかもしれないですね。
先々、ロボットとしてくまきゅを考えるのかとか、ロボティクスの入ったぬいぐるみとしてくまきゅを考えるのか。
■吉崎さんのロボット観を聞いてみたらすごい回答が…
金:で、話はややそれるんですけど、吉崎さんの思うロボットってなんなんだろう?というのが気になります。そもそもロボットいつから好きだったの?とか、現在はロボットに関わるお仕事をされてますが、どうしてそこに至ったのか?とか。
そういう質問をしてみたくなりました。
吉:なるほど。
ルーツはフィクションです。はっきり言えばアニメやおもちゃですね。
一番最初は3~4歳の時で、ものごころついたときから好きだったみたいです。
最初にプラモデル作り始めたのも幼稚園ぐらいでした。
金:えっ…早いですね。
吉:そうなんですかね?そのころ好きだったアニメの一つが、パトレイバーです。
金:お、パトレイバーは知ってます!かつ、好きです!
想像世界じゃない、現実世界の中にロボットがあるって感じが新鮮で。
3~4歳ですか?
吉:そうですね。確か90年くらい?ですもんね。OVAがあったころがリアルタイムかな?
もちろん、ガンダムもトランスフォーマーも好きです。
金:ちなみにパトレイバーはどのロボットが好きなんですか?
吉:ど、どれ、ですか?ロボットの名前でいうと、ヘルダイバーが好きですね。
金:私はグリフォンを見たときにかっこいい!となりました。
吉:Type-J9ですね。(メガネが光る)
金:あ、J9ていうんですね。(わかってない)
吉:ヘルダイバーはこれですね(画像を見せていただく)
金:おおー、渋い!軍用っぽい…。
吉:自衛隊なんで、軍ではないですね(キッパリ)
金:あ、そうですね、それは言ってはいけないですね(笑)
バイクとかトラックとか自衛隊仕様のものにイメージが近いですね。
吉:オリーブドラフとか、カーキとか、そういう色ですかね。
金:ええー、渋いですね(3,4歳でかあ…)
男の子の小さい頃って赤とか白とかはっきりした色が好きなのかと思ってました。
吉:主人公カラーですね。それも大好きですよ。
派手な色という意味では、戦隊モノも好きだったんですけど、
おもちゃの武器とか人形は一切もってなくて。合体ロボットだけで買ってもらってましたね(笑)
金:ああ、なるほど(笑)
吉:武器とか持ってない理由もはっきりして。
自分が何かになりたいわけじゃなくて、何かを動かしたかったんですね。
金:それは、すごく興味深い回答ですね…。
吉:その頃から、ロボットを紙とかで創っていたみたいです。
当時の写真見るとそういうのばっかりですね。
後、折り紙とか、創作折り紙も好きだったみたいです。
作ることが好きだったみたいで。
金:創作折り紙って、折り方から考えるやつですか?
吉:そうですね。
その辺の空間認識とかの考え方、ロボットを作る上でも便利です。
頭の体操的にも効きそうな感じですね。
金:ああ、本当に元々って感じなんですね。
筋金入りっていう言葉がぴったりな…。
で、そういう幼少期を過ごされて、中学、高校とか、高度なことができるお年ごろには何をされていたんでしょう?
吉:小学校にはパソコンですね。
で、中学の自由研究で「巨大ロボットは何メートルまで実現可能なのか」を計算して・・・
金:ほう!何メートルまでいけるんですか?
吉:8mですかねー。もろにパトレイバーの身長です。
そこまでは行けるだろうと。動かすのは油圧とかでなんとか行けるだろうと。
で、課題はソフトだと中学生ながらに考えたわけですね。もちろんかなり雑な計算なんですが。
当時、ASIMOが歩き始めたころかな?
そこから、高専ではソフトをやろうと。
金:中学でもう研究ですか…
吉:ただの自由研究ですよ(笑)
金:ご謙遜ですね…。
で、高専ではソフトを学ぼうとされたわけですね。
吉:ええ。でも、一人でロボット作れるとはおもってなくて。
そのころ、ロボコンが最も強い高専に入ったんです。
情報系に進んだんですけど、部活というか、ロボコン部でハードの作り方も学んで、っていう感じで。
設計も全部やりたい!できるかも!とそのころは思ってました(笑)
金:うーん、でも、当初の目標であったソフトの勉強を軸足にされたわけですね。
あ、で、設計も「できると思っていた」と。
吉:今となっては、プロの仕事の現場を目の前にすると、なかなか「できる」とか言えないですね。
やっぱり難しいなと。すごいノウハウ要りますよね。
で、次は画像処理をもう少しやりたいと思って大学に進みました。
金:不勉強で申し訳ないんですが…画像処理とロボットは何がつながるんですか?
吉:目です。
金:おお、なるほど。
吉:その後、大学院大学に進学して、さらに個人制作みたいなことも始めました。きっかけは、IPAの未踏に採択されたことですね。
ここでV-Sidoを作り始めました。
金:ああー、人に歴史ありというか…濃い!濃いですね(笑)
で、その後、クラタスとかも手がけられて…あれは8mを超えているんですか?
吉:歩けるロボットで8mを超えているものはまだないと思います。
そういう意味では、まだまだ道半ばですね。
■V-sidoに隠された野望
金:ちょうどお話が出たんですが、どうしてV-sidoだったのか、今日は聞いてみたいことの一つに入っていました。吉:昔からロボットを作りたいという欲求だけからきていて、操縦士になりたいわけではないというのは一貫してました。
どうやったら、自分のあこがれるロボットが実現するのかと考えたんです。
たとえば、大金と人材を使って、1台だけ完成された完璧なロボットがつくれればいいのか?・・・たぶん違うんですよね。
たとえば…変な話ですけど、100年前にスマホ持ってくとしますよね。
そうすると全然使えないわけです。充電、電波、GPS、すべての条件がそろっていない。
それと同じことが、ロボットにも言えるのかなと。
完璧なロボットがあったと仮定して、1台だけあっても全然本質的じゃない。
だって、自分が見ていたロボットの世界、SFの世界では人が、文化が、社会的背景が、ロボットを受け入れていたじゃないか、と。
だったら、ロボット作るよりも先に、世界観を構築するのが良いよね。って思っちゃったんですよ(笑)
パトレイバーも、世界の説明から入るじゃないですか。
金:最初、確かレイバーというものを説明するシーンがありましたね。
吉:そうそう、レイバーが投入される理由を説明しているんですよ。
バビロンプロジェクトという計画を達成するために公共事業が大量に発生していて、それを効率的にこなすためにレイバーが開発・生産されているという社会背景。
レイバーが土木作業用に大量に作られるんですけど、悪用した犯罪も出てきて。
それで警察は、対ロボット用の戦闘ができて犯罪者への心理的な作用も考えられた、かっこいいロボを作った・・・という感じだった気がします。長いですね(笑)。
そこまで考えないと、カッコいいロボットは出てこない。
金:あっはっはっは(笑)
いい分析ですね(笑)
吉:他の物語にしても、理由は不明かもしれないですが、やっぱり受け容れられちゃってるんですよね。
なんかわからないけど、もういる、みたいな。
ただそうすると、戦車でもいいんじゃないか、とか言われる。いいんじゃないですかね。戦車でも同じ物語はできるかもしれない。
ただ、何らかの理由で、戦車がロボットに置き換わっただけです。偶然かもしれないし、だれかが仕組んだかもしれない。
ぬいぐるみも、家のお手伝いさんも、技術が進んだ先にふと、ロボットに置き換わるかもしれない。
それはどんな理由なのか、公共事業なのか、だれかがロボを無償で配ったのか、人間のお手伝いさんを禁止する法律ができたのか・・・
だれかが作ったそういうきっかけが、SFを実現するかもしれない。
金:いい妄想力ですね(笑)
吉:私は今、ロボット関連の政府の委員やら参与として、いくらか議論に参加させてもらっていますが、そういうまじめな取り組みにおいても、社会にどういうきっかけを与えればロボティクスが広まるのか、というのはもちろん重要視されてます。実際に頭を悩ませているのは私よりずっとえらい人たちですが(笑)
技術だけでなく、社会変革にも目を向けないと、パトレイバーは登場しないはずです。ロボットの必然性は、既にある需要やその解決法がどう変化するのかと関係がもちろんあるわけですが、それは外的要因で変えられる。
金:なるほど。
吉:というか、そういうのって比較的小さなきっかけで変わったりする気もするんです。
金:小さなきっかけ…。
吉:そうです。
例えば、歩行ロボットとタイヤロボットの優位性についてどう思います?
もし明日、誰かが人型でパーフェクトなお手伝いロボットを安価に市場へばらまいたとしますよね。
人を雇うのと同じノリで、それより安く雇えるなら、すぐに流行るでしょう。家庭内のお手伝いなら、階段も登れる脚のほうが、タイヤより便利そうです。
ただ、そんなパーフェクトなロボットは、さすがに明日には発売できません。技術の問題もコストの問題もあります。ならいつ登場するのか?
もし、このロボットが市場にばらまかれるより前に、皆さんの家から段差がなくなり、完全バリアフリー化されたならば、それでも家庭用ロボットに脚は必要でしょうか?
先に家から段差がなくなってしまったら、もうタイヤでいいんじゃないでしょうか?
金:おおぅ…。
吉:違う言い方をしてみます。靴を履くのも、清潔な道路を保つのも大差はないとか、そういうことです。
たとえばアメリカの家では靴を履いたままだけど、日本の家では靴を脱ぐ。
その割合は、単に流行った時期の技術水準や社会背景に依存しちゃいます。
世の中のことは大抵、その時々の最適解になってると見せかけて、案外歴史とかの非効率な理由で決まってるように思います。
だから、誰かが自宅のあらゆる機器に脚を付けて便利さを証明すれば、とても面白いことが、起こるのかもしれません。
こういうことを言うと、コストを指摘してくださる方がいらっしゃったりするんですが、一度起こってしまえば案外便利、というのはあると思います。
金:うーん、本質からそれてしまうかもしれないですけど。
アトムの創世記の漫画を読んでいるんです。
それを読むと、機械に足があるかないかはやっぱり「違う」ように感じますね。
吉:どう違うんですかね?
金:段差の越え方が変化しますね。
そうすると、行けるところの幅が違う。
山林、砂漠、車輪などでは行けない世界へのアプローチが出来ますね。
そうすると、使える幅が代わって、必然性が変わるなと。
やっぱり脚があるとないとは違う世界と感じてしまうんですが…。
吉:なるほど。誤解させてしまったのであれば申し訳ないんですが…。
やはり靴の話で例えると、全ての道を清潔で平らにしても、「靴があったほうがいい」派は存在するわけです。
山に行くには靴が必要だろう、全ての道が舗装されるわけじゃないだろうと。
その通りですね。でも、メジャーかマイナーかというのは、小さなきっかけで、やはり変わるように思います。
金:ああ、メジャーとマイナーの割合の話ですね。
吉:足とタイヤ、全く違うのはその通りですが、メジャーとマイナーは小さなきっかけで変化するということですね。
すべての道が舗装されて屋根があれば、山に行くのって年に何回なんだと(笑)靴なんて年に一回くらいしか使わないよ・・・という未来も、条件を整えればあるのかもしれない。たとえば未来の火星コロニーとかは、そうかもしれない。基本の生活空間はすべて清潔な道になってるかもしれない。
だから、人型ロボットが無駄だとか、技術的困難だとか高価だとか、そういう理屈もあるけど、それを超えた観点で流行る要因はあるはず。個人的にも歩くロボットが好きなので流行ってほしい。
金:確かに歩く、というのは楽しいですね。
吉:あったほうがいいと思いますよ(笑)
吉崎さんの今までを振り返り、V-sidoに隠された野望を知ったところで、後編に続く…!
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